わこわこマラソンクラブ

1/25/2013

第20回日本山岳耐久レース(ハセツネカップ)24時間以内

2012年10月7日、日本にトレイルランニングということばがなかった頃から始まった通称、「ハセツネカップ」の20回目の記念大会のときが来た。当日の天候はまた今年も雨。傘を片手にエントリー場所である五日市会館に進む参加者のあとを進んでいく。
3回目の出場、2回目の完走を目標に練習を重ねたきたというと、そうではない。ここのところ数ヶ月、どうも気力が充実せず、練習もままならず、更には山に1度も入らずに大会に臨むような状態だった。それなら、24時間以内の完走を目指す、ということに目標を変えても良かったのだが、それを許してくれない状況があった。
それは、私が所属する会社の代表として8日の朝9時から始まる表彰式に出なければならないことになったからだ。そうなると、遅くとも20時間以内のフィニッシュが必要となる。昨年も19時間半かかっている、さあどうする・・・という不安感が心を満たす。
知らないうちに雨は上がった。13時からのスタートを前に12時半から開会式が始まる予定だったが、なぜか時間が押していて13時ぎりぎりに全ての開会式のイベントが終わり、スタート位置に一番先頭の選手が着く前に号砲がなった。スタートだ。
楽なレースではない。過酷な山と自分との戦いの始まりだ。ただ、こころの中にあるのは、「無事に帰るのがルール」というハセツネの基本だ。先を急ぐランナーの背中を見ながら、自分の本分を再確認する。
街中を抜けて南秋川を越える大和田橋を過ぎると、アスファルトの道を経て広徳寺から本格的な山道に入る。1昨年のトラウマからか水を4L,ザックに入れているため、背中がやたら重く感じる。上りはひたすら歩く、歩く、歩くの繰り返しだ。
昨年に増して渋滞しているように感じる。山に入ってすぐにストップ&ゴーを繰り返し、時間をロスしていく。しかたない。体を慣らす時間と考えよう。
30分後、変電所を過ぎ、40分後には今熊神社の階段の上りに入る。応援がありがたい。まだ元気だ。
入山峠に14:25到着。この階段の上りでも100人くらいが並んでいる。尋常ではない。
そこから市道山に至る道では青空がのぞき、杉の数多立つトレイルには日差しが神々しく差し込む。
15km地点には16:07に到着、5km/時間のペースで、予定時間より速めだ。そしてすぐ先に醍醐丸の大応援団の声が聞こえる。ハセツネでは応援者がランナーに何も渡すことは許されない。声だけが唯一渡すことが出来るものだ。
三国峠には17:05到着。標高990m、19km地点。やっとこさここまで来た感じだが、まだ足は残っている。
軍刀利神社には17:13到着。まだ夜の帳は下りてこない。
第一関門である浅間峠には17:51到着。22.6km地点。関門毎に5時間で行くと17時間でゴール出来るという法則があるらしい。一緒に走っている人から聞いた。
ここで多くのランナーと同じく、少々の休息をとる。今回塩羊羹を持ってきたがなかなか良い。疲れた体に甘みと塩分の補給の意味でもこの食べ物は良いと思う。
28km地点の笛吹峠(うずしきとうげと読む)には19:27到着。ちょうど1000mの標高だ。疲労が少し身に沁みてきた。
一昨年水切れでリタイアした西原峠1158m32km地点には20:18到着。浅間峠から使用が許されているストックをハセツネでは今回初めて使用する。おそろしく上りが楽になる。しかも下りでも安定性がいい。まだUTMFで使用して2回目の利用だが、ストックが使えるレースでは使ったほうが結果は良いというのが私の体の印象である。
三頭山非難小屋には21:14に到着した。体力を温存してきたからか、だいぶからだのもちが良い。まだ元気だ。三頭山頂には21:32到着。トップランナーはここでライトをつけるようだが、私は既に6時間近くライトを点けていることになる。日本海から太平洋まで日本の尾根を越えていく1週間の山岳レース:トランスアルプスジャパンレースに出た仲間に聞いたところ、「動物にならないと、とても完走することは出来ない」と言っていたのを思い出した。きっとトップの選手はカモシカのような気持ちで走っているのだろう。
三頭山を過ぎると下り基調となるが、予断を許さない状況は続く。鞘口峠を経て風待峠を越えて第二関門の月夜見に到着、23:11。42km地点標高1147m。なぜかここでおなかが痛くなってきた。実はレースが始まる前からいまひとつの感じだったが、ひとまず出したら落ち着いた。ここでもパワーバーと羊羹を食べる。
御前山には0:48到着。1405m46km地点。ヘッドライトは200ルーメンのLEDを使っているが、足元を照らすと、地面から立ち上がる水分で光が足元まで届くことなく拡散してしまうことから、腰に90ルーメンのライトを点けたが、いまひとつ機能してくれなかった。これは来年以降の宿題としたい。
大ダワには1:49到着、大岳山には2:58到着。そろそろ残り20kmをきったということもあり、走りきれそうだという安心が心を満たしてくる。こういったときは逆に心配だ。
御岳山には4:07分、御岳神社には4:14到着。神社の参道を降りつつ、地元の方の応援を力に換えて前へ進む。
4:52日の出山に到着。ここからは東京の街の灯が見える。そらはまだ闇の中だ。
最後の長い下り坂である金比羅尾根を飛ばしたいところだが、どうも下りに弱い私はスピードが出せない。雨とランナーのシューズで削られたU字型の山道をそろりそろりと下っていく。
市街地に入った。アスファルトの道を進む。
ゴールはすぐそこだ。いざ五日市会館へ。
ゴール、タイムは17:43:39。男子総合1090位。
第一関門4:46:39
第二関門10:1:03
第三関門15:2:33
と、当初予定していた8時までにゴールするという目標をクリアし、午前6時43分にフィニッシュ出来た。
総エントリー数2574名、出走者2344名
完走者男子1750名、女子233名、合計1983名、完走率84.6%
このレースは完全ノンサポートであり、なんでこんななの?と訝しがるランナーも多い。私も基本的にはエイドが充実した大会が好きだ。
しかし、参加3回を数えるまでになり、なぜかこの大会に魅了されている自分がいる。それはなぜかと聞かれれば、まだ良く分からない。
そのヒントとなることばを、友人から誘われて出席した10月のサハラマラソン壮行会のときに聞いた。
その言葉は、「自己満足」だ。
オリンピックを目指し競技を続けてきたが、怪我でそれを断念せざるを得なくなり、傷心の中、サハラマラソンにエントリーした人の発した言葉だ。
自分が自分の為にやり遂げる。
誰に自慢するわけでもなく、ランナーとしての地位を確立するわけでもなく。
自分に自信をつけるために、そして、自分を満足させるためにレースを走る。
自己ベストを目指すことも、レースを完走することも、その人の自己満足を叶えるためにある。そう思えてきた。

誰かに自慢するために、誰かと肩を並べるために、自分のランナーとしての箔をつけるために走るのではない。自分を満足させるために走る。
自己満足のため、来年も再来年も、そしてそのあと出来る限りこのレースに参加していきたい。きっとそのうち答えが見つかるだろう。